福島県郡山市強姦事件

2002年09月 「間違いありません……」


 起訴事実の認否について裁判長に問われ、服部英之は小さな声でそう答えた。少年法の
改正以後、15歳以下としては全国で初めて刑事責任を公開の裁判で問われたこの少年。隠
れるところもない法廷で肩をすぼめ、自分を少しでも目立たなくしようとしているように
見えた──。

 2002年9月に起きた、福島県郡山市内のマンションに独りで暮らす女性(20)を狙った強
盗・強姦・監禁事件。逮捕されたのは、中島順司被告(34・以下、年齢はすべて事件当時)
と服部英之(15)、国分榮太郎(16)の3名だった。中島被告は翌月に起訴され、少年二人は
少年法の規定に従い家裁へ送致された。当時それほど注目されなかったこの事件は、2002
年12月になってにわかに注目される。少年が、二人とも家裁から検察へ逆送されたのだ。

 増加する少年犯罪の対策として、改正少年法が'01年4月に施行された。成人と同様に
刑事罰を問える年齢を、16歳以上から14歳以上にまで引き下げたのだ。だが、ホームレス
暴行死事件(東京・'02年1月)や児童施設職員殺人事件(愛知県・'02年10月)など、少年に
よる凶悪犯罪が続いたにもかかわらず、15歳以下の少年が検察へ逆送され、刑事罰を問わ
れることは一度もなかった。つまり、服部英之は、15歳以下としては全国で初めて逆送さ
れたのである。
 逆送され、刑事告訴された少年たちの初公判は、2003年1月31日に福島地裁郡山支部で
開かれた。116名の傍聴希望者が集まり、19席しかない傍聴席はすぐに埋まってしまった 。
そして午後2時に開廷。

「これが、子供のやることなのか──」

 検察官が早口で読み上げる冒頭陳述書には、凶悪な犯行の様子が記されていた。

「可愛いコが独り暮らしをしている」(以下、3被告の発言はすべて冒頭陳述書朗読より)

 そんな何気ない一言が、事件の“入り口”だった。当時、中島被告を含め3人は同県い
わき市内の会社で読売新聞の拡張員として働いていた。中島被告からその話を聞いた国分
榮太郎は自分も拡張員としてその女性の部屋へ赴おもむき、「アレは可愛い。強姦してで
も性交したい」と思うようになったという。

 国分榮太郎と服部英之は中学校のサッカー部の先輩後輩という関係で、二人とも高校へ
は進学していたが、次第に不登校になって、夜出歩くようになり、ついには二人とも家出
してしまった。新聞拡張員の仕事は寮が用意されていたため、家賃を払う必要はなかった
が、給料は完全歩合制だった。成績の悪い3人はカネに困っていたという。そんなとき、
中島被告が二人に、強盗をしようと持ちかけた。

「この前のあのコがいい。あのコを犯してみたい」(国分)

 強盗と強姦。凶悪な欲望を女性に向けた少年たち。中島被告が宅配便の配達員を装って
扉を開けさせ、AとBが室内へ押し入って女性をテープで縛りつける、お互いを偽名で呼
び合うなど、大人顔負けの犯罪計画を立てたのだった。


「警察に言ったら、殺す」

 「宅配便です」

 2002年9月2日の午後6時30分ごろ、ドアを開けた女性を、中島被告は一気に押さえ込
んだ。その後、少年たちも侵入し、悲鳴をあげる女性を縛りつけた。目的はあくまでカネ
だった中島被告は、女性の財布からカードを抜き取り、キャッシングができるかどうか確
認するために外出する。

「こいつ、やってもいいっすか」(国分榮太郎)

 強盗よりも強姦が目的だった少年たちは、無慈悲な言葉を吐いた。嫌がる女性を二人は
怒鳴りつけ、「うるせぇ! 俺らを誰だと思ってんだ!」と脅迫したのだ。

「女性は、“地獄”を見た」

 事件後、女性を診察した警察医はそう証言している。まさに地獄だった。国分榮太郎は
下半身を出したまま仰向けになり、女性に「上を跨またいで腰を下ろせ!」と命令。室内
にあった包丁を服部英之に持ってこさせ脅迫し、強姦を始める。さらに部屋にインスタン
トカメラがあるのを見つけ、写真を撮って、女性が後で訴えられないようにした。続いて
服部英之も、恐怖で抵抗することもできない女性を犯した。その後、浴室やロフトベッド
で約22時間もの間、およそ10回に亘わたって代わる代わる女性を陵辱りようじよくした だ。

「警察に言ったらわかってんだろうな。殺すからな……」

 中島被告もカネを手に入れた後、強姦。醜悪な欲望を満たした3人は、翌日の9月3日
の午後4時ごろに女性の部屋から去る。女性は下着姿で縛られ、階段を外したロフトに監
禁されたままだった。

「事件の後、男の人が怖くなりました。夜は睡眠薬を飲まないと寝ることもできません。
家から出ることが怖いし、一人で歩くのも怖い。道で男性とすれ違うだけで、震えてしま
うんです……」

 被害者の悲痛な思いを、公判で、検察官が読み上げた。その際も、少年二人はじっと前
を見て無表情のままだった。検察官が読み上げた罪状は、住居侵入・強盗・強姦・監禁・
窃盗・詐欺。これほどの犯罪を犯した少年たちの素顔とは──。

 少年たちの家庭は、どちらも閑静な住宅地の中に建つ一戸建てにある。近隣住民は「国
分榮太郎くんは大人しくていい子だった。近所でトラブルはなかった」という。だが、中
学時代の同級生はいう。

「親に甘やかされていましたよ。国分榮太郎の家は会社の社長さんなんで、遊びに行った
とき、『アイス買ってきな』と、1万円を国分榮太郎に渡していたのを覚えています。高
校に入ったころから、学外の悪いやつらと付き合うようになって。あんまり姿を見なくな
りました」

 公判終了後、国分榮太郎の実家を訪ねてみた。出かけるところだった父親に声をかける
と、記者をにらみつけてこう言い放った。

「何も騒ぐことではないでしょう。“未成年”なのに……」

 それ以上は質問に答えず、自宅へ戻ってしまった。服部英之の実家にいたっては、玄関
のドア越しに「取材はお断りします」と女性が答えるのみだった。この親たちは、わが子
の残虐・非道な犯罪を、真摯(しんし)に受け止める気があるのだろうか。

「私はこの事件で一生消えない傷が心に残りました。なのに、犯人たちは何年かすると社
会に出てくるかと思うと、悔しくてしかたがありません……」

 少年たちに地獄を味わわされた被害者の訴えが、少年や親たちに届いているとはとても
思えない──。
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